2014年10月18日土曜日

ショートストーリー:Azir - 立ち上がりし者

Narrative EditorのJaredan氏による、Azirのショートストーリー訳になります。


Azirは黄金が敷き詰められたEmperor's Way(皇帝の道)を歩いていた。Shurima最初の支配者─彼の先祖だ─を象った巨大な像が、彼の歩みを見つめている。

柔らかく、ぼんやりとした夜明け前の光が、彼の都市を染め上げてゆく。頭上には未だ煌々と輝く星があったが、太陽が昇れば、その輝きは払拭されてしまうだろう。その夜空は、Azirが思い出せる夜空ではなかった……星と星座の位置がずれている。一千年もの時が過ぎ去っていた。

一歩ごとに、Azirの地位を象徴する重い杖が音を立てる。虚しい音が、無人の首都の街路に響き渡る。

彼が最後にこの道を歩いた時には、一万人の精鋭が儀仗兵を務め、彼の後に続いて行進を行った。行進を見る群衆の歓声は、街を揺るがすほどだった。それは彼の栄光の瞬間だったのだ──既に奪われたものではあるが。

そう、ここは無人の都市になってしまったのだ。彼の民は一体どうなってしまったのだろうか?

道に広がる砂に対し、威厳のある身振りでAzirは生ける像を形作るよう命じた。過去の幻影。かつてのShurimaの残響が形を与えられしもの。

砂の人形たちは前を向き、半リーグ(訳注:1.5マイル)先のDais of Ascension(昇華の祭壇)の上に浮かぶ巨大なSun Diskへと向かった。それはAzirが留める帝国の栄光と力を表す光景ではあったが、目撃する者はひとりとして残されていなかった。彼を目覚めさせたShurimaの娘、彼の血統を受け継ぐ彼女は、去っていったのだ。彼は彼女が砂漠の外にいることを感じ取っていた。二人の間を、血が繋いでいた。

Azirが皇帝の道を歩くと、砂に残響として残された民たちがSun Diskに浮かび上がり、彼らの歓声は恐ろしいものへと変わっていった。彼らの口は声なき叫びに大きく開かれていた。彼らは逃げようとして走り、よろめき、死んでいった。絶望の静寂の中、Azirは全てを見届け、民たちの最期の瞬間に耐えていた。

彼らは見えざるエネルギーの波動によって消滅させられ、塵と化し、風になってしまった。この大災害を引き起こした彼の昇華の、何がいけなかったのだろうか?

Azirは絞り込んでいった。彼の行進はさらに決然としたものとなる。彼はStairs of Ascension(昇華の階段)の下に辿り着くと、それを登り始めた。配下たちには5分間の休憩を取らせた。

彼が最も信頼する兵士たちと司祭、そして王族の血統を継ぐ者のみが、この階段に足を載せることを許される。砂の身となった彼らはAzirの歩む道に沿って並び、その身が再び風に吹き飛ばされるまで、上を向き、顔をしかめて静かな苦悶の声を上げていた。

どんな者よりも速く、彼は走った。その爪は石造りの壁を掘り、彼らが捉えられていた場所に跡を刻んだ。砂の像は生まれ、そして壊れた。彼が登る道の両側で。

彼は頂上にたどり着いた。そこで彼が見たのは、最後に彼を見守っていた者たちだった。最も親しい側近、助言者、高司祭たち。彼の家族。

Azirは膝から崩れ落ちた。彼の家族たちが目の前にいた。完璧な形で再現された、もう戻らないその人たちが。身重だった彼の妻。人見知りな彼の娘は、妻の腕にすがっている。真っ直ぐに立つ彼の息子は、もう大人になろうとしていた。

恐怖の内に、Azirは彼らの表情が変わるのを見た。これから何が起こるのか知っていたが、彼は目を逸らすことができなかった。娘は妻のドレスの中に顔を隠していた。息子は自分の剣に手を伸ばし、立ち向かおうと叫びを上げた。妻は……彼女の目は見開かれ、その中には悲しみと絶望があった。

不可視の何かが、彼らを無へと吹き飛ばした。

どうにもならない光景ではあったが、Azirの目からは一滴の涙も零れ落ちることはなかった。昇華を果たした彼は、永遠に失われたものの悲劇を再現しただけなのだ。沈んだ心で、彼は立ち上がった。彼の血統はどうやって生き延びたのかという疑問は残っていたが、確定したことなのだから、とやかくは言うまい。

最後の残響が待っている。

彼は前へと進み、祭壇まであと一歩というところで歩を止めた。そして彼の目前で演じられた全てを見届けた。砂の中での再現を。

彼は自らを見た。Sun Diskの前で、その定命の身体は浮かび上がり、彼は両腕を大きく広げて大きく胸を広げた。この瞬間を彼は思い出した。力が彼の中に広がり、彼という存在に染み渡り、神聖な力が彼を満たしてゆく。

新たなる人影が砂で形作られた。彼に儀式を勧めた張本人、彼の魔術師、信頼していたその人。Xerathだ。

かの友は無音の言葉を発した。まるでガラスの向こうで起きているかのように、Azirは自分自身がバラバラの砂となって弾け飛ぶのを見ていた。

「Xerath」Azirは無音の声を発した。

裏切者の顔は窺い知れなかったが、Azirには殺人者の顔としか見ることが出来なかった。

この憎悪は一体どこから生じたのだろうか? Azirはそれに気づいていなかった。

Sun Diskのエネルギーを受け、Xerathを象った砂の幻影が空中へと浮かび上がる。護衛をしていた精鋭兵が彼に突進するが、全ては遅すぎた。

砂による激しい衝撃波が広がり、Shurima最後の瞬間を消し去った。今にも消えようとする過去の残響たちの中で、Azirはただひとり立ち尽くした。

これが、民が死んだ原因だ。

Azirが踵を返すと、夜明けの光の最初の一筋が、頭上にあるSun Diskを照らし出した。彼は十分に見たのだ。存在が変質したXerathを象る砂の像は、彼の背後で崩れ去った。

傷ひとつないAzirの黄金の鎧が、昇りゆく朝陽を反射して、目も眩むような輝きを放つ。その瞬間、彼は裏切者が生きていることを知った。大気の中に漂う、魔術師の生気を感じ取ったのだ。

Azirが片手を挙げると、昇華の階段の下に広がる砂から、精鋭兵の一団が姿を現す。

「Xerathよ」彼の声には怒りが含まれていた。「汝の罪、罰されぬままではあるまいぞ」

原文
Short Stories: Azir—Arisen

Azirのストーリーについては、拙訳になりますが以下の記事をご参照ください。