2014年12月1日月曜日

ショートストーリー:Xerath - 解放されし者

Narrative EditorのJaredan氏による、Xerathのショートストーリー訳になります。

対になるAzirのショートストーリー訳についてはこちらをどうぞ。


まさにその時だった。

彼が大きな代償を払った千載一遇の好機、生涯を費やした計画が結晶した時。頽廃した帝国と、その威を借りる若君は、彼らが共に信頼していた、まったくもってくだらない太陽のシンボルの下に倒れ伏した。用心深く守られ、狡猾に手を伸ばされた不死への鍵は、全人類の目前で奪われ、彼一人のものになるのだ。完璧な報復のチャンスこそが、Xerathという名の奴隷をついに解放してくれる。

彼の主人がかぶる兜は、彼が常人のような外見ではないことを露わにしており、繊細な模様が刻まれた金属は人と同様の反応を返さないことを示していた。しかしXerathは魂の宿らぬ鷹の面に向かい、人に対するのと同様に、偽りなき歓喜をもって微笑んだ。最初は狂った皇帝に、そして今は自惚れた皇帝に仕えてきた奴隷としての人生。玉座とその周りを操る、終わりなき日々。彼の中からほとんど消え失せ、思い出すこともほとんどない知識を求める、破滅的な道程。──それら全てが、この「昇華(Ascension)」という、滑稽な虚構へと集約されたのだ。

襲いかかった時に彼の口から出たのは、まさしくそんな言葉だった。我らは昇華する、だがお前が、砕けた石に繋がれている間、時の砂がお前の全てを飲み込むだろう。いや。これ以上、もう、繰り返さない。選ばれし黄金の王は、太陽の抱擁を受けられず、神にはなれぬのだ。この奴隷が、それをする。そうだ、ただの奴隷、かつて高貴な身分の子供を流砂から助けた、不幸な男だ。

そしてこの太陽から、Xerathは罰を受け続けてきた。恐ろしく、気が狂うような約束とともに──自由。手の届かない。許されない。この奴隷の心に何か思い浮かんだとしても、それは死という罰を受けることであり、昇華を果たした者(Ascended)がかつての肉と骨、魂そのものの奥深くを凝視できたならば、ぼんやりとした反逆の意志が立ち昇るのが見えたであろう。さりとてそれは発せられた。母なる砂漠の流れるような抱擁から引きずり出されようとしている若君の口から。「黄金の太陽」Azir、命の恩人にして、新たなる友を解放することを誓いし者。

この日まで、約束は無視されてきた。感謝を述べた子供の言葉は、その効力を無邪気に忘れ去られたのだ。数千年間の支配を、Azirがひっくり返すことができようか? 伝統と、父と、運命と、どうして彼が戦うことができたろうか?

そしてついに、自分が発した言葉を尊重しなかったがゆえに、若き皇帝は全てを失うのだ。

その後間もなく、Xerathは地位を授かり、教育を受け、最終的にはAzirの信頼する右腕となった──が、自由になったわけではなかった。気まずい約束は彼と、彼の可能性をも蝕んだ。拒絶されたのは小さな、単純なことだった。自分の人生を生きる権利。Xerathは全てを奪うことにした。彼を拒絶したもの全て、彼にふさわしいもの全てを──それは帝国であり、昇華であり、なれたかもしれない自由の、完全に純粋な形であった。

Shurimaを守っていると思い込んでいる間抜けな番兵が固める脇を、吐き気がするほど荘厳な「昇華の祭壇(Dais of Ascension)」へ、仕える皇帝の背後に畏まりつつも歩を進める。その際中、Xerathは今まで感じたことのない心の軽さを感じていることに、純粋な衝撃を受けた。これが……喜びなのか? 報復が、喜びに繋がっているのか? その衝撃は、彼の身体をも震わせるものだった。

まさにその時、彼を苦しめてきた相手である、豪奢な黄金の鎧が不意に立ち止まった。そして後ろを振り返る。彼はXerathに向かって歩み寄った。

彼に知ることができたのか? どうやって? この甘やかされた、自己中心的な子供に? この公正で、不誠実で、情け深い皇帝の手は、Xerath自身の手と同じくらい血に塗れていただろう? たとえ彼が知っていたとしても、すでに放たれたとどめの一撃を、止めることなどできないが。

Xerathはあらゆる事態に備えていた。賄賂を贈り、殺人を犯し、策略を仕掛け、数十年に渡って計略を進めてきた──あの恐るべきNasusとRenektonの兄弟を謀り、この行事から遠ざけた──が、これは彼の計画に入っていない……

Shurimaの皇帝にして、黄金の太陽であり、母なる砂漠に愛されし、間もなく昇華を果たそうとしているその人物は、兜を脱ぎ、誇らしげな顔貌と微笑みを宿した目を露わにした。そして彼は最も長い付き合いの、最も信頼する友に向き直った。彼は語った。兄弟の愛。友人たちの愛。困難な戦いによって勝ち取った愛と、それによって失われた愛。家族の愛。未来の愛。そして最後には……自由の愛について口にしたのだ。

その言葉が彼の口から出た瞬間、衛兵がXerathの脇に立ち、その武器を抜いた。

そう、若君は知っていたのだ。Xerathの計画は、無に帰してしまったのだろうか?

だが、鎧を纏った間抜けは敬礼したのみだった。彼らに悪意はなく、Xerathを称えていたのだ。彼らは祝福していた。

彼の解放を。

憎き主人は、彼を自由にしてくれた──彼は全てから解き放たれた。彼を鎖で縛り付けるShurima人はもういない。人間としてのAzirの最後の行動は、その民を自由にすることだった。

集まった群衆の、建物の土台を揺るがすような歓声が、Xerathが口にした返答を消し去る。Azirは兜を被り、大きな歩みで祭壇の上へと歩み去った。儀式の参列者たちが、彼が神属に連なる瞬間への準備を進める。その瞬間は永遠に来ないというのに。

Xerathは巨大なSun Discの陰に立っていた。帝国の破滅する瞬間が、数秒もしないうちに到来するのだ。その念を秘めて。

遅すぎたのだ、友よ。遅すぎたのだ、兄弟よ。私たち二人にとっては、何もかもが、遅すぎたのだ。


原文
Short Stories: Xerath—Unbound