2015年7月23日木曜日

イベントストーリー:Bilgewater: Burning Tides - 第一幕・第三部

Bilgewaterイベント、公式掲載ストーリーの第一幕・第三部の訳となります。


League of Legends - Bilgewater: Burning Tides

ワイルドカード、警鐘、手品

状況は厄介なことになった。早すぎる。

ヤバい倉庫には鋸鈎の連中がうじゃうじゃといるが、Malcolmは連中に大した注意を払えていない。奴が見ているのは俺だけだ。

俺はGravesの次弾を察知して身を翻した。銃声が耳をつんざいて何も聞こえなくなる。俺がいたところにあった箱が爆発して粉微塵になる。あと数秒そこにいたら、俺がそうなっていたところだった。

かつての相棒は、俺を殺そうとしている。俺は奴の殺意を確信した。

マンモスの象牙の山を宙返りで飛び越え、俺は3枚のカードを奴がいる方に放った。カードが狙った場所に当たるよりも先に、俺は遮蔽物の陰にしゃがみ、死角に入ろうとした。数秒の間隙、ただそれだけが必要だった。

奴は大声で悪態をついたが、カードは奴の動きを鈍らせる以上の効果を発揮しなかった。まったく、タフな野郎だ。強情な奴でもある。適切なタイミングってやつをわかっちゃいない。

「逃げられねえぞ、T.F.」奴は唸った。「今度こそはな」

ああ、そんな性格だから厄介事にはまっちまうんだよ、お前は。

あいつは間違ってるが──それはいつも通りなんだ。できる限りさっさととんずらしよう。奴が血を求めて猛り狂っている時は、何を話しても無駄だ。

さらなる銃撃。値がつけられないほどの価値のDemacia製スーツアーマーに散弾が跳ね、壁や床に埋まる。俺は左右に駆け、縫うように進み、フェイントをかけ、遮蔽物から遮蔽物へと走った。奴は脅しと非難の文句をわめきながら俺にぴたりと追随し、その手からはショットガンが吠え猛る。Gravesのやつ、大男にしては動きが素早い。すっかり忘れていた。

俺が抱える問題は奴だけじゃない。バカが蜂の巣を銃で撃って大声で喚き散らしちまった。鋸鈎の連中は全員で俺たちに殺到しているが、大きな扉に閂をかけるための人員を配置するだけの知恵はあったようだ。

俺はここから出なきゃならん──が、追跡者を置いていくことは不可能なようだ。

倉庫の周りでダンスと洒落込もうか、Graves。俺は事がめちゃめちゃになる直前にいた場所にたどり着いた。俺とご褒美の間には鋸鈎たちがおり、援軍も来ていたが、待っている時間などない。手の中のカードが赤い光を帯び、俺はそれを堅く閉じた倉庫の扉の中央へと放った。爆発は扉の蝶番を吹き飛ばし、鋸鈎の連中を四散させた。その只中へと飛び込む。

連中のひとりは予想よりも早く回復し、俺に手斧を振り下ろしてきた。俺はその一撃をかわすと、膝に蹴りをくれ、残りの連中を黙らせるべく、一揃いのカード全てを放った。

邪魔者はいなくなった。俺は元々の依頼対象である華麗な短剣をひったくると、自分のベルトに吊るした。こんなことになっちまったが、トラブルに見合う額はもらえるだろう。

大きく開いた荷揚げ用の扉に飛び込みたい気もするが、鋸鈎の連中が詰めかけすぎている。ここから出る道はない。この狂乱の倉庫の中でただ一箇所、静寂を保っている片隅へと俺は歩み入った。

転移の準備を始めると、手の中でカードが舞い始める。だが俺が精神を漂わせ始めると、Gravesが姿を現した。素早い熊のように、俺を付け回していたのだ。奴の手の中でDestinyが跳ね、鋸鈎が撃たれて布片をまき散らす。

怒りに燃えるGravesの目が、俺の手の中で輝くカードに引き寄せられた。奴はこの意味を知っている。銃身が俺に向けられる。集中を邪魔され、俺は動かざるをえなかった。

「もう逃げられねえぞ」奴は俺の背後から怒鳴った。

今回ばかりは、奴はバカではない。俺に時間を与えてくれない。

奴は俺をゲームから遠ざけ続けている。俺はこの場の鋸鈎たちに捕らえられてしまうのではという考えがのしかかり始めた。連中のボスは、慈悲深さからは程遠い存在だ。

他の思考で千々に乱れる俺の頭は、頭痛を起こし始めていた。もう簡単な仕事なんてものはどこにもなく、一番大事な時にしっぺ返しを食らってしまった──それに突然の再会も。昔の相棒が俺を待ち受けていたとは。Gravesよりももっと賢い人間が、俺をただの阿呆にするべくゲームをプレイしている。

俺はこれよりもましだ。俺は感傷に浸る自分自身を叱咤したが、船渠はもう、俺というトラブルを待ち受ける荒くれ者たちでいっぱいだ。

今、とにかく重要なのはここから離れることだ。Malcolmのクソ銃が二発吼え、俺は慌ててその場を飛び退いた。埃まみれの木箱に寄りかかった背中に、ドスンという衝撃が伝わる。弩の矢が背後から俺をめがけて飛来、俺の頭から数インチの腐った木に刺さったのだった。

「よーし、もう終わりだ」Gravesが鋭く叫ぶ。

当たりを見渡すと、爆発から引火した炎が、屋根に回り始めているのが見えた。奴の言うこともまあ、納得だ。

「もうどうにもならねえぞ、Graves」俺は叫ぶ。

「お前は全部わかっていたんだろう」奴が答える。

奴を説得しよう。

「俺たち二人なら、ここから生きて出られる」

自棄っぱちになれ。

「お前をもう一度信じるより先に、俺たち二人の死体ができるな」奴がののしる。

俺は全く期待していなかった。筋の通った会話をすれば奴を怒らせるだけだが、それは確かに俺が必要としているものだ。こうやって奴の気を逸らし続ければ、倉庫の外側に転移する時間は稼げる。

Gravesが怒声を噛み殺すのが倉庫の中から聞こえた。奴は俺がいた場所の周りをうろついただけで俺を見つけられず、床に落ちた挑発のカード1枚を見つけただけ、間違いない。

俺は背後の荷揚げ用扉に向け、カードの集中砲火を浴びせた。もう巧妙なやり口にこだわっていてもしょうがない。

燃える建物の中にGravesを残すことについては、少し罪悪感がある──が、たぶん奴は死なないだろう。奴を殺すには、火事くらいじゃ足りない。それはそれとして、船渠内での火事は、港町に大打撃を与えることだろう。これでしばらく時間が稼げる。

屠殺船渠を出る最短の道を探していると、背後で爆発音が聞こえ、俺は後ろを振り返った。

Gravesだ。倉庫の横腹を吹き飛ばして開けた大穴から、奴が歩み出ていた。その目の中には殺意が燃えている。

なんて奴だ。そう思いつつも俺は走った。追ってくる奴のショットガンが轟く。

あの決意には完全に脱帽だ。

今夜、それが俺の死因にならないといいが。