2015年10月28日水曜日

イベントストーリー:Bilgewater: Burning Tides - 第一幕・第四部

Bilgewaterイベント、公式掲載ストーリーの第一幕・第四部の訳となります。


League of Legends - Bilgewater: Burning Tides

細工物、力にものをいわせた見せしめ、報せ

船長の居住区へと導かれ、その小さな浮浪児の目は大きく見開かれて、パニックに陥り始めた。

廊下の突き当りにあるドアから聞こえてくる苦痛の叫びがもたらしたのは、二つめの推測だった。漆黒の巨大戦艦のデッキをつんざく叫び声は、この「死人溜号」に乗船している船員全員に聞こえるようにされているのではないか──わざと。

最初に会ったのは顔に無数の傷がある男で、少年を安心させるように肩に手を置いた。彼らは扉の前で立ち止まった。扉の向こうから再び泣き叫ぶ声が聞こえ、少年は縮み上がった。

「気をつけろよ」とその男は言った。「船長は、お前が話すことを聞きたいはずだ」

そうしてから、彼は鋭く扉を叩いた。少し間が空いてから、広刃の曲剣を背負い、顔に刺青を入れた醜い大男が扉を開けた。2人の大人の間で交わされている会話は、少年には聞こえていなかった。彼の視線は、奥に座る大きな人影に吸い寄せられていた。

大柄な船長は、中年くらいだった。首と肩は分厚く、雄牛のようだ。服の袖はまくり上げられ、前腕は血に濡れていた。分厚い外套がそばの掛け釘にかけられており、黒い三角帽が横に掛けてあった。

「ガングプランク」恐怖と畏敬でいっぱいになった声を発し、浮浪児は息を呑んだ。

「船長、こいつに聞きたいことがあると思いやして」と彼をここに連れてきた男が言った。

ガングプランクは何も言わず、視線を送ることもせず、作業に没頭していた。傷のある船員が少年を前へと押し出した。少年はつまずき、おぼつかない足取りで進み出た。「死人溜号」の船長の前は、彼にとって崖っぷちと同義だった。船長の作業を視界いっぱいに収め、少年の呼吸が速まる。

ガングプランクの机の上にあったのは血の混じった水で満たされたたらいで、そばにはナイフ、鈎、そしてきらきらと輝く外科手術器具が並んでいた。

船長の作業台の上には1人の男が横たわり、革紐できつく拘束されていた。自由なのは頭だけだ。彼はどうやら必死らしく、首を精一杯伸ばし、顔は汗まみれだった。

少年の視線は容赦なく、男の傷めつけられた左足に引き寄せられた。その瞬間、浮浪児の少年はここに来ることになった理由を思い出せないことに気づいた。

ガングプランクは作業を切り上げ、来訪者をじっと見つめた。その目は冷たく、死人のようでもあり、鮫のようでもあった。彼は片手に細身の剣を持っており、指で巧みにそれを支えてみせるさまは、まるで素晴らしい絵筆を持つかのようだ。

「瀕死の芸術作品、細工物だよ」とガングプランクは言い、作業へと注意を戻した。「近頃は骨への彫り物に耐えられる奴が少ない。時間がかかるのだ。わかるか? ひとつひとつの傷には、意味があるのだよ」

どういうわけか、足をずたずたにされ大腿骨から皮と肉を剥がされても、その男はまだ生きていた。恐怖でその場に釘付けになり、少年は骨に刻まれた複雑な意匠、渦を巻く触手と波を見た。それは精緻な作品で、美しくすらあった。ただ、それ以上に恐ろしいものでもあった。

ガングプランクの生けるキャンバスはすすり泣いている。

「お願いだ……」彼はうめいた。

ガングプランクは悲痛な懇願を無視すると、ナイフを下に置いた。作業を終えて、彼は1杯の安ウィスキーをソーダで割り、血を払った。男が幸いにも白目を剥いて気絶するまで、男の叫び声は彼自身の喉をも引き裂きかねないほど続いていた。ガングプランクは胸くその悪い不平をこぼした。

「これを覚えておけよ、坊や」ガングプランクは言う。「時折な、自分たちの居場所への中世を忘れるようなやつがいるのだ。思いださせることが必要になるのだよ。実力こそが全てだ。弱さを見せれば、たとえ一瞬であろうとも、終わってしまう」少年はうなずいたが、その顔は蒼白になっていた。

「こいつの目を覚まさせろ」ガングプランクはそう言い、気を失った船員を指差した。「船員皆がこいつの歌を聞かにゃあならん」

船医が進み出て、ガングプランクは少年へと視線を戻した。

「さて」一息つける。「きみは私に何を話したいのだね?」

「ひ……人が」少年の言葉は口ごもっていた。「鼠街の船渠にいる人が」

「続けなさい」ガングプランクが促す。

「鈎の人たちから隠れようとしてて。でもぼくは見たんです」

「ふぅむ」ガングプランクは興味を失い始め、ぶつぶつとつぶやいた。作業へと戻る。

「お前、続けろ」最初に会った男が促した。

「その人は、綺麗なトランプのカードで遊んでました。おもしろいくらい綺麗に光るんです」

深みから立ち上がる巨人のように、ガングプランクは椅子を蹴倒して立ち上がった。

「どこで見たかを話せ」彼は言う。

ガングプランクが握りしめた銃のホルスターの革ベルトが、ぎしぎしと音を立てる。

「倉庫の、屠殺場の近くの大きな倉庫のそばです」

ガングプランクの顔は瞬時に真っ赤な怒りに染まり、彼は掛けてある外套と三角帽を引っ掴んだ。彼の目はランプの光の中で赤く輝いていた。慎重に帰り道につく少年は、ひとりでは帰されなかった。

「この子に銀の蛇貨と温かい食事を与えてやれ」船長は少年を連れてきた男にそう命令しながら、船室の扉に向かって決然と歩んだ。

「あと、全員を船渠に集めろ。仕事だ」