2014年12月2日火曜日

ショートストーリー:Kalista - 嘆願

Ant in Oz氏によって公式掲示板に投稿された、Kalistaのショートストーリーの訳になります。


燃え尽き焼け焦げた家の廃墟の中心に、剣を携えた女性が立っていた。大事な人々は皆死に、何もかもがなくなっており、彼女は測り知れない悲嘆……そして憎悪に満たされていた。今の彼女を突き動かすのは、憎悪しかなかった。

命令を受けると、彼は笑った。彼女はまた見たのだ。彼は彼らの守護者と定められていたが、彼はその誓いを破った。誓いを破りし者に壊されたのは、彼女の家族だけではなかった。

彼を捕らえたいという欲求は、強いものだった。彼の胸に剣を突き立て、生命の光がその瞳から消え失せる様子を見ること以外に、彼女が望むことなどなかった……だが、それが可能なほど彼に近づくことは二度とできないことも、わかっていた。彼は日夜守られており、彼女はひとりの戦士に過ぎなかった。彼の率いる大部隊をくぐり抜け、戦うことなどできないだろう。そんなふうに死んでも、目的は果たせない。

戻ってくる者はいないとわかり、彼女は身震いして息を吸った。

棒と紐で作られた呪いの人形がひとつ、火で焼け焦げた鏡台の上に横たわっていた。その身体は、裏切者の外套の切れ端に包まれていた。彼女はそれを、死んだ夫の手をこじ開けて取り上げた。金槌と錆びついた釘3本もいっしょに。

彼女は荷物をまとめ、玄関へと向かった。攻撃を受けた扉は砕け、なくなっていた。その入り口から月光が差し込み、空っぽの廃墟を照らし出す。外の畑は闇に包まれていた。

手を伸ばして、呪いの人形を入り口の梁へと押し付ける。

「我は汝に嘆願す、報復の女神よ」深い怒りに震える、低い声で彼女は唱えた。「帳の彼方より、我が請願を聞き入れたまえ。顕現したまえ。正義を遂げさせたまえ」

金槌と、最初の釘を構える。

「裏切者の名をひとたび告げる」彼女は唱え、彼の名を大声で叫んだ。そして棒人形の胸に、最初の釘を突きつける。一打ちでそれは深く刺さり、扉のあった枠に人形が打ち付けられた。

妻は身震いした。部屋の温度が明らかに低くなってきている。それとも、彼女の錯覚だろうか?

「裏切者の名をふたたび告げる」彼女は唱え、再び名を叫んだ。1本めの釘のすぐそばに、2本目を打ち込む。

彼女が視線を落とすと、衝撃的な光景があった。月光に照らされた畑に、暗い人影がひとり、彼女から100ヤードほど距離を置いて立っていたのだ。人影は完全に静止していた。すぐに息を吸うと、妻は儀式の完遂に注意を戻した。

「裏切者の名をみたび告げる」彼女は唱え、夫と子供を殺した人殺しの名をもう一度口に出した。そして最後の釘を定められた場所へと打ち付ける。

古の報復の精霊が戸口を塞ぎ、彼女の前に立っていた。妻は思わず息を呑み、後ろによろめいた。

この世のものとは思えないそれは古風な鎧を纏い、肌は青白く透け、肉は幽霊のような色彩に沈んでいた。まるで生ける帳のごとく、黒き霧が彼女の周りを取り巻く。

金属の軋む音を立てながら、その幽霊のような人影は、自分の鎧の胸板から突き出す、黒ずんだ槍を引き抜いた──彼女の生を奪った、古の武器だ。

彼女は妻の目の前の地面に、それを投げつけた。言葉は交わされなかった。必要ないからだ。それが申し出たもの──報復──を妻は知っていたし、それが求める対価もわかっていた。彼女の魂だ。

無表情な精霊の顔の中から、尽きることのない冷たい怒りに燃える目が、彼女を見つめていた。妻はその裏切りの武器を手に取った。

「我は自らに報復を誓わん」妻は唱えたが、その声は震えていた。彼女は槍を逆に持ち、その先端を自分の心臓へと向けた。「我が血に懸けて誓わん。我が魂に懸けて誓わん」

彼女は固まった。夫がいたならば、引き返すよう嘆願しただろう。こんな行為に魂を捧げ、報いを望むなんてやめろ、と懇願しただろう。一瞬の逡巡が、彼女を苦しめた。死ぬことのない幽霊は、それを見つめている。

剣と斧でずたずたにされて横たわる夫の屍が脳裏をよぎり、彼女の目が細められる。彼女はもう一度、地面に横たわる子どもたちのことを思い浮かべた。彼女の心を重くする冷たい石のごとく、彼女の意志は固まった。槍をぐっと握りしめる。

「我に助けを」決意とともに、彼女は哀願した。「どうか、あいつを殺させて」

自らの胸に槍を突き立て、深く深く抉る。

妻は目を大きく見開き、膝から崩れ落ちた。何か言おうとしているが、その唇からは血の泡が発せられるのみ。

現れた幽霊は彼女の死を見ていたが、その表情は終始ぴくりともしていなかった。

妻の身体から生命の最後の一滴が失われると、そこから亡霊が立ち上がった。彼女は実体を失った自らの手を見下ろして驚き、床に広がる血の海の中に横たわる自らの死体を見下ろした。幽霊の表情は硬くなり、その手に剣が現れた。

ほのかに光る霊的物質の縄が、彼女が召喚した新たなる復讐の精霊との間に結ばれていた。この繋がりを通し、生前高貴なる戦士であった、今とは異なる彼女が妻には垣間見える。背が高く、誇りに溢れ、輝ける鎧を纏った戦士。彼女の立ち姿は自信に溢れていたが、少しも傲慢さを感じさせないものであった。生まれながらの指導者。生まれながらの兵士。彼女のためなら喜んで我が血を流そう、そう思わせる指揮官の姿であった。

精霊の怒りの陰で、共感できる感情があった──裏切られた痛み、それはふたりにとって共通したものであった。

「汝の訴えは我らが訴えぞ」と、“報復の槍”Kalistaは言い放った。その声は、墓場の底に漂う冷気の冷たさだった。「我ら、ひとつとなりて報復の道を歩まん」

妻は頷いた。

かくして、復讐の精霊と妻の亡霊は、闇の中へと去っていった。


原文
Short Stories: Kalista - Invocation

拙訳ですが、Kalistaのシネマティックトレーラー訳もぜひご覧ください。